岩手は歴史ある南部杜氏と呼ばれる日本酒の専門家集団がいることでも知られています。そのためレベルの高い日本酒造りが行われている地域です。このように東北の酒どころという顔を持つとともに様々な伝統工芸や新しい試みが行われ、その流れは酒器にも表れています。
※この記事を書いたライターランニングフリージーのプロフィール
秀衡塗のワイングラス
グラスに漆絵を施した酒器
岩手は漆の産地であるとともに奥州平泉で栄えた歴史を持ちます。この平泉を治めていた藤原秀衡が京都から漆職人を招聘して始まったのが秀衡塗です。
数多くある岩手の漆器の中でも異なるのが、金をふんだんに使った華やかさ。当時の奥州平泉は金の産出で大いに栄えていたため、その金を用いているのが特徴です。その技法は現代にも受け継がれ、華やかな漆器は健在です。
このグラスは、秀衡塗の伝統技法である色漆を使った漆絵を施しています。
重厚な質感を持つ漆で描かれたワイングラスは伝統美を感じさせ、ワインをより奥深い味わいに感じさせてくれることでしょう。
酔仙酒造のグラス
東日本大震災から復活を遂げた蔵元のグラス
岩手県の海岸部、陸前高田市で長年酒造りを行ってきた酔仙酒造。この蔵元は、2011年の東日本大震災で津波にのまれ壊滅的な被害を受けた経験を持ちます。当初は、その被害の甚大さから存続を危ぶまれましたが、多くの方々の支援によって復活しました。
このグラスはそんな酔仙酒造が復活できたことの感謝の気持ちを込めて作った酒器です。東京のガラス工房である松徳硝子の協力によって蔵元オリジナルの冷酒器を生み出しました。
葆光庵(ほうこうあん)の角杯
ユニークな形の漆器で作られた片口
国産漆の約7割を生産する岩手県。ここでは様々な酒器が生み出され、この酒器もその一つです。
この酒器は伝統的な浄法寺漆の技法を用いながら一味違った酒器として生み出されたものです。なぜなら伝統技法から新たな漆の展開を提案するプロジェクト「葆光庵」から生み出された新たな酒器だからです。このプロジェクトからは様々な試みがなされ、今回紹介する酒器はGOOD DESIGN AWARD 2020を受賞しています。
独特な形状をした片口に2種の大小の酒盃が入れ子状にスッキリと収まる新しい設計は実績のある職人、松沢氏の手によるものです。2016年のLEXUS NEW TAKUMI PROJECTの岩手県の匠として選出された松沢氏は新しい試みにも挑戦し、結果を出しました。岩手の新しい風を感じながらお酒を楽しんでみてはいかがでしょうか。
陶房金沢の平盃
この唇と一体化するフィット感!!
この質感、大きさもちょうどいい蔵祭りでお世話になった「陶房金沢」さんの平盃
昔割ってしまったものと同じ反り具合のものがあって購入させていただきました
初めて好きになった平盃が買えてうれしいな♪ pic.twitter.com/uwhvnyJ9UQ— かどもん (@kwabibinga) September 29, 2019
益子焼の流れを岩手に伝える匠の酒器
陶房金沢を主宰する金沢氏、岩手に生まれ栃木の益子焼の窯元で修業を積んだのち、岩手南部の紫波町(しわちょう)で開窯しました。
同地で20年以上益子焼の技法を用いながら独自の技術で岩手の焼き物の一翼を支えてきた実績を持ちます。土の荒々しさと手触りが魅力の炭化焼き締めや豊かな表情が特徴の粉引と呼ばれる白い器を手掛けている岩手の匠でもあります。「すべての人に美味しいを」をスローガンに使いやすい器を作る「てまるプロジェクト」にも参加し機能に優れた作陶も特徴です。
この酒器も使いやすさを意識した平盃で、ふちがきれいに丸められ飲みやすく、こぼしにくいデザインに仕上がっています。唇と一体化するフィット感や使いやすい大きさにお酒も進むのではないでしょうか。
流工房の盃
南部鉄器と南部蒔絵のコラボレーション
岩手の南部にある雫石町で制作を行っているのが流工房です。
南部鉄器の技術に南部蒔絵の技術を組み合わせた作品を数多く手掛けている工房として知られています。
この酒器は南部鉄器の盃に、工房で南部塗を施した盃です。豪快な風神の絵をあしらい、力強さを感じさせる酒器に仕上がっています。秀衡塗や浄法寺塗の技法を用いた南部塗で仕上がった盃で日本酒を楽しんでみてください。
鍛冶丁焼のぐい呑み
花巻に伝わる伝統的な焼き物鍛冶丁焼は、岩手県の中西部にある花巻市で焼かれている陶器です。
江戸時代に花巻の鍛冶町で開窯されたのが始まりで、明治、大正と焼かれ続けてきました。しかし昭和になって技術を受け継いでいた陶工が戦死したために断絶。戦後に益子焼の修業をした陶工が保存復興を志し、復活させた歴史を持ちます。地元花巻の粘土に豊沢川の砂を加えてろくろを使って作られているのが特徴で素朴な風合いが特徴です。
このぐい呑みもそんな鍛冶丁焼の特徴を持ったぐい呑みで日用品としても利用しやすい落ち着いた雰囲気を持っています。毎日の晩酌で使えば、どこか癒されるでしょう。
福おちょこ
蹄鉄がユニークな木製のおちょこ
福おちょこは、岩手の名木である北限山桜の高樹齢木材を使用しておちょこに加工しているのが特徴です。加えておちょこの底には南部鉄器の技法で作られた馬の足元につける蹄鉄を模した金具がつけられています。
おちょこも幸福が貯まりやすいような形に仕上げてあり、蹄鉄も幸福が貯まると伝承されたアイテムです。万事、うま(馬)く行く、交通安全・開運・金運に良く幸福を招くなど縁起の良い言葉が合わさっていることから来ています。
使い方もユニークで、マグネットで取り付けできる蹄鉄を外しておちょこの飲み口につけます。そして、馬蹄鉄の開いたところからお酒を注ぎましょう。入った幸運を逃がさないようにそっとまわして頂くことで幸せが口の中に入ってくる仕組みです。岩手の技術が詰まった酒器で幸せを願っていただきましょう。
浄法寺塗りの酒器
三浦春馬さんのおかげで
浄法寺塗はたくさんの人に広まり、
買っていただくことができたと、
産地の皆さん、
本当に感謝されていました。そう、産地にとっては、
しっかりと伝えてくれる人の存在は
とても大きいのです。#浄法寺塗#浄法寺漆 pic.twitter.com/yPXq50NbpG— 大牧圭吾|ニッポン手仕事図鑑 編集長 (@by_waterman) March 29, 2021
日本の漆器を支える伝統工芸品
浄法寺塗は、岩手の内陸部にある二戸市で作られている漆器です。
その歴史は奈良時代にまでさかのぼります。728年に聖武天皇の銘を受けた行基が現在の二戸市浄法寺町に天台寺を創建したことに始まったといわれています。当時、寺で使用する漆器類を寺内で作り始めたのがきっかけで、周囲に多くの漆の木があったことから盛んになりました。
その後も漆塗りの技術が途切れることなく伝わっていきます。明治期には福井県からの出稼ぎによって福井の優れた漆の抽出方法や漆器の技術が合わさり、さらに進化を遂げます。昭和期になると漆の自給率が下がり、深刻な状況になりましたが、漆の木の栽培を行い国産漆の生産を支えました。
また、浄法寺産の漆はウルシオールの含有量が多いため、浄法寺塗は硬く丈夫で現在も優れた漆器として知られています。
この酒器は、長い歴史と高い品質を現在につなげています。杯はもちろんのこと、ぐい呑みやカップなど様々な酒器を製造しているのが特徴です。悠久の歴史と漆の情熱を感じながらいっぱいいかがでしょうか。
まとめ
岩手は漆器を中心として様々な伝統工芸品が酒器に生かされています。その一方で他県の技術を導入したり、新しい伝統工芸品の形を目指している動きもあります。
今回はそのような流れを感じさせる酒器を中心に集めました。新しい岩手の酒器の形や伝統的な技術を体験できる酒器を使いながら、お酒を楽しんでみるのもおすすめです。きっと新しいお酒の楽しみ方ができるのではないでしょうか。