世界有数のカルデラを持ち、雄大な大自然を擁するのが熊本です。その中央の阿蘇山、イメージから古くより火の国という異名を持っています。阿蘇によって形成された地層の賜物である湧水も県内各所にみられ、きれいな水を生み出す土地でもあります。

湧き出る豊富で美味しい水は、美味しい農産物や熊本ならではの食文化にも注目です。馬刺し、太平燕(タイピーエン)、からしレンコン、幻の地鶏・天草大王、にんにくチップとマー油が決め手の熊本ラーメン、それに天草の新鮮な魚介を使ったすしなど日本酒や焼酎、ビールにハイボールなど様々なお酒に合う料理ばかりです。
そんなお酒のとの関わりも多い熊本の酒器を紹介していきます。
※この記事を書いたライターランニングフリージーのプロフィール
小代焼のぐい呑み
小代焼は、熊本市をはじめ荒尾市、南関町など熊本北部で焼かれている陶器です。もともと熊本を治める細川氏が前任地であった大分の陶工を熊本に呼び寄せ焼かれるようになったのが始まりです。
粗めの土に鉄の釉薬を用いて藁や笹の灰から生み出された釉薬をその上に流し掛けするという技法で野性味が溢れる力強い風合いが特徴です。一度は近隣の有田焼や東海地方の瀬戸焼に押されて消滅の危機がありましたが、近代になって復活した背景を持ちます。
国が指定した伝統的工芸品の現代的な解釈を感じながら日本酒や球磨焼酎を楽しむのもおすすめです。
文蔵のガラ
朝からずっと飲んでいますが
ここで球磨焼酎 文蔵
車1台がやっと通れる道を進んだらある蔵
運転に難渋した記憶がある茅葺、文蔵梅酒は買って帰ってすぐに来客に飲まれて、隠していた10年文蔵しか残っていない pic.twitter.com/a2liUzltsJ
— 焼酎天国 (@shochu_paradise) May 4, 2020
球磨焼酎のブランドが光る焼酎酒器
熊本を代表する焼酎と言えば球磨焼酎です。その焼酎を楽しむフラスコの形をして長細い注ぎ口がついた独特の酒器が「ガラ」です。球磨人吉地方特有の酒器で、熊本特有の酒器とも言えるガラですが、古くから焼酎を楽しむ酒器として多くの熊本の人々のお酒の席を彩ってきました。
もともと球磨焼酎は、今以上に荒々しい癖のある味わいを持っており、香りも特有だったと言われています。その香りはそのまま加熱すると部屋中に立ち上り、お酒の苦手な方にはやや不快な香りだったようです。そういった香りを抑えつつ、加熱時も効率よく温めながら、焼酎を飲む方だけが香りの良さを存分に楽しめるという工夫がされています。
そのガラを同地の有名な焼酎醸造所の木下醸造所が自身のブランドである文蔵のロゴを大胆に配したのがこの酒器です。現在は、マイルドになり誰もが美味しく呑めるようになった上で香りも素晴らしいものに進化しています。しかし、当時の飲酒習慣に倣ってガラで楽しむ方も多く球磨焼酎を楽しむのであれば1つは欲しい酒器と言えるでしょう。
白岳のガラとチョク
てんこ盛りの馬刺し!
繊月の焼酎を白岳のガラで飲む🍶 pic.twitter.com/S0yGyJXceL— ポンコ (@ponko1960) June 2, 2019
チョクもついた醸造所の酒器
先ほど紹介したガラには、実は対となる酒器、チョクがあります。このチョクは、日本酒の徳利とお猪口の関係に似ており徳利の位置であるガラとお猪口に相当するチョクという関係です。
このガラとチョクを組み合わせたものを熊本県人吉市にある焼酎醸造所である高橋酒造の代表ブランド、白岳のロゴを配した酒器セットとして販売されているのがこの酒器です。地元では晩酌のおともにもなっている白岳、この白岳をガラに入れて温め、ちょくに注げば、どこにいても熊本の晩酌風景に早変わりするでしょう。
球磨焼酎のそらぎゅう
一口で呑み干すのが前提だからオチョコ(盃)は基本的に酒が入ったまま御膳に置くものではない。
だから昔はこう云う器が使われていたのだ。
この器をソラギュウと云う。
「そら、ギューっと呑め」って事らしい。 pic.twitter.com/EnlCuQcWEV— 阿部隆史@ジェネラル・サポート (@GS_abetakashi) August 27, 2022
独特の形状をした焼酎お猪口
そらぎゅうは、焼酎用のお猪口です。独特の形状をしており、小型で独楽のように底が尖った形に変形しているのが特徴です。この形は一度注がれたら置けないことから、どんどん球磨焼酎が進む酒器として知られています。
そもそも名前の由来も「そら、ぎゅー、と飲め」というやり取りから来ているとのことで、お酒好きが多い熊本ならではの酒器といえるかもしれません。さらに加工されて指をかけて持ちやすいようにへこみを加えて底に穴の開いたものがあるのも特徴と言えるでしょう。いずれにしても一度注がれてしまったら焼酎を飲まなければいけない酒器です。
高田焼
奥行きのある模様が美しい酒器カップ
熊本には北部の小代焼に対して南部の高田焼があります。八代焼ともいわれるこの焼き物は、小代焼同様に400年の歴史を持つ、熊本の代表的な工芸品です。
熊本藩の保護の元、その技術を磨いてきた高田焼は、独特の象嵌模様が特徴です。この象嵌模様とは、最初に素地を作ってその生乾きの状態のまま、別の色の土や粉をぬりこんで焼き上げる技法として知れています。加えてそれらをしっかり埋め込むことで独特の立体感のある風合いに仕上がる技法です。
今回紹介するカップは、サクラの模様を埋め込んだ青緑の青磁器で、高田焼の立体感を感じるカップと滑らかな茶色の表面に同じくサクラの象眼模様を施した滑らかなカップの2種類です。いずれも同じ高田焼でありながら対照的な風合いを持っており、お酒を存分に楽しめる酒器カップといえます。焼酎はもちろん、ビールやハイボールなどを注いでも楽しめる酒器と言えるでしょう。
小代焼の馬上杯
伝統的な技法を用いた伝統的な酒器
小代焼の典型的な技法である鉄の釉薬を用いた酒器です。力強い風合いを感じさせる焼き物に仕上がっています。また、この小代焼で作ったのが馬上杯、高台部分を高く作ることで握りやすくなっているこの酒器は、古くから馬の上でもお酒を楽しめる酒器として作られてきました。
現代でこそ馬の上でお酒を飲む機会はありませんが、キャンプや、あるいは車の後部座席のメンバーでお酒を楽しむ時など外出時に用いても良いかもしれません。それだけの耐久性もあるので、使って楽しむ酒器と言えます。
小代焼の屠蘇器
ハレの日も力強い酒器で
酒どころとして知られる熊本は、酒器も様々なものが作られてきました。本来であれば朱色の漆器というイメージのお屠蘇を入れる酒器も熊本では力強い小代焼で仕上げられています。陶器が苦手な薄い杯の形状も小代焼できちんと再現しているのも特徴と言えるでしょう。
朱色に対して鉄釉のシブい茶色も風情があるので、ハレの日もその雰囲気を盛り上げてくれるはずです。年に数回使うかどうかの酒器も小代焼でこだわってみるのはいかがでしょうか。
くまモンの製氷器
熊本を代表するキャラクターの酒器熊本を代表するキャラクター、それがくまモンです。ゆるキャラのはしりとして登場し、瞬く間に全国区のキャラクターになったくまモン。
そのくまモンを製氷器にしたのがこの酒器です。くまモンの上半身、くまモンの全身などのユニークな氷が自宅の冷凍庫で気軽に作れてしまいます。焼酎グラスに入れて熊焼酎のロックを楽しむのもおすすめです。
もちろん、ウィスキーや日本酒のロックに使っても楽しいお酒の時間を演出してくれるでしょう。
まとめ
北の小代焼、南の高田焼と南北にわたって窯業が行われているのが熊本です。さらに独特の酒器であるガラとチョク、そしてそらぎゅうなど焼酎にちなんだ酒器も多くあるのが特徴です。
そんな熊本の酒器と共に同じく熊本名産の球磨焼酎と熊本の美味しい料理の数々を用意すれば、きっと贅沢な時間が流れること間違いありません。当然水も、湧水で名高い熊本のミネラルウォーターにすれば、自宅にいながら熊本気分を満喫できるでしょう。ただし、そらぎゅうは自分だけの楽しみやお酒の強い友人にだけ使うのがおすすめです。
このような魅力的な酒器が数多く揃い、お酒やグルメの豊富な熊本は、酒どころの総合力が高い場所と言っても過言ではありません。