御前酒

御前酒(岡山の日本酒)蔵元探訪・9(NINE)レギュラーボトル・純米 美作の特徴や美味しい飲み方を分析

現在、日本酒を醸造する酒蔵の数は1400超、銘柄の数にいたっては1万以上あるそうです。
銘柄の数が多いのは、新開発のお酒などを新たなブランドで販売するなど、酒蔵の多様な販売戦略のほか、銘柄の入れ替わりや、販売停止の銘柄も多くあるからだそうです。
最近の銘柄はユニークなものが増えている反面、伝統の銘柄もしっかり残っています。伝統の銘柄の中には、少し変わった名前のお酒もあります。たとえば岡山の地酒「御前酒」は、お酒の種類や冠号ではなく、単に「御前酒」という銘柄。「御前酒○○」ではないのです。どんな歴史で由来があるのか、ご紹介しましょう。

創業200年超、美作勝山のお酒

御前酒」を醸すのは、岡山県真庭市勝山にある御前酒蔵元辻本店。創業は江戸時代の文化元年(1804年)、町人文化が花開いた時代です。当時の美作勝山の地は、美作勝山藩2万3千石の城下町で、美作地方の中心地でした。
美作の国は、古来「うまさけの国」と称されて、盆地のという地形の影響もあり、寒冷な気候、清冽で豊かな水、良質の米と、日本酒を醸造するのぬは適した条件が揃っていました。
渓谷
同じ岡山県内でも、瀬戸内海沿いの日本酒は甘口のものが多いのに対し、美作のお酒はすっきりとした辛口に仕上がるそう。それも、冬季の厳しい冷え込みが生み出し、求められた味わいなのです。
200年を超える歴史をもつ酒蔵ですが、進取の気質がしっかりとあり、こと美味しい日本酒造りに対しては積極的な取り組みを行ってきました。純米酒の醸造には、昭和40年代半ばより着手、当時は純米酒という言葉も一部の関係者や好事家の間でしか通じない時代です。現在では、酒蔵の製造するお酒の7割を占めるまでになりました。

国登録有形文化財

辻本店の店舗兼主屋をはじめ倉庫や庭園、西蔵などの一連の建造物群が、国の登録有形文化財として登録されている。これらの建物は、酒蔵創業の文化元年(1804年)に建てられたと伝えられる店舗兼主屋、幕末期に建てられたかつての倉庫で現在は事務所とされている建物、明治期の建造物衣装蔵、奥座敷、西蔵、倉庫、表門及び塀など、さらに昭和の唐塀の一連の建造物。創業以来、規模を拡大してきた歴史と、それぞれの時代の装飾や彫刻など趣向が凝らされた建造物は、造りも丁寧で、出雲街道沿いの立地とあいまって、歴史的価値の高い建造物です。そしてほとんどの建物は現在も現役なのも建物の造りの技術の高さをうかがわせます。
また、明治中期に建てられた西蔵は、土壁となまこ壁におおわれた重厚な建物。


中へ入ると、大きな欅を使った大黒柱と大梁を見ることができます。長年、お酒の貯蔵庫として利用されてきましたが、建物の持つ雰囲気や風情をそのままに、「日本酒ある暮らし」を提案する「お食事処西蔵」、「にしくらカフェ」、辻本店の商品を販売する「御前酒ショップ「SUMIYA」」として、訪れた方々が利用できるように改装されています。

「御前酒」の由来とこだわり

日本酒の銘としてちょっと変わった名前の「御前酒」。もともと、創業の時より「萬悦」の銘で親しまれたお酒を醸造していました。ある時、美作勝山藩より、藩御用達の献上酒として「御膳酒」の銘を受け醸造を開始しました。そう、当初は献上酒につけられた銘だったのです。「御膳」とは、お殿様などの食事を指す言葉です。献上されたお酒は、美作勝山藩の公式な食事などに用いられたのでしょう。「御前酒」の由来を紐解けば、献上酒として高い評価を受けていたことが知れます。
創業以来、一貫して備中杜氏の伝統的酒造りを継承しています。また、地元産のお米や水へのこだわりも深いものがあります。水は、中国山地に源を発し、瀬戸内へ流れる旭川の滋味豊かで清らかな伏流水を地下深くより汲みあげて使用しています。
お米も、岡山県産米の酒米「雄町」や「山田錦」を使用しています。特に「雄町」は、岡山県の風土が育んだ酒米です。栽培が大変難しく、手間もかかるため生産者が減り、幻の酒米とも呼ばれることもありました。しかし酒米の雄「山田錦」にひけをとらない品種と高い評価を受けています。辻本店では「雄町」にはより強い思いがあります。

「御前酒」醸造の要「菩提酛」

日本酒の醸造では酒母を造ることが知られていますが、この造り方を巡り大きく二つの方法が用いられています。現在の主流は、乳酸を添加して酒母作りの期間を短縮でき、コントロールがしやすい速醸系と、乳酸を用いない生酛系の酒母造があります。生酛系には、さらに生酛造りと山廃造りに分かれます。
辻本店の酒母造は、生酛系の酒母造ですが、途中の工程で乳酸菌を増殖させた「そやし水」を注し水をすることに特徴があります。菩提造りの歴史は古く、室町時代に遡ります。現在では、一部の神酒造り以外にはみることはない醸造法ですが、辻本店ではさらにブラッシュアップし、菩提酛で醸したお酒を唯一製造しています。

江戸時代創業、菩提酛で醸す日本酒「御前酒」3選

「御前酒」の味わいは総じて「コクがあり、なおかつキレのよく、さらになめらかなお酒」と、前杜氏の時代のお酒を、当代の杜氏である辻麻衣子氏は語っています。その酒質を守りつつ、当代杜氏はさらに磨きあげています。
「御前酒」は、純米酒をはじめ吟醸酒、大吟醸酒や季節限定酒など幅広い商品をラインナップしています。なかには酒蔵へ出向かなければ購入できないお酒もあります。

御前酒 蔵元探訪


蔵元へ出向かなければ購入できないお酒は、「御前酒 蔵元探訪」という銘柄で、中のお酒は季節ごとに異なっているそうです。面白いのは、蔵元の直営店「御前酒ショップ「SUMIYA」」で販売される方法です。注文すると、その場で蔵出ししたばかりのお酒をタンクから瓶詰してくれるところ。本当に新鮮なお酒の感じがして、お土産には最高です。

GOZENSHU9(NINE)レギュラーボトル

GOZENSHU9(NINE)レギュラーボトル」、ワインボトルのような洒落た瓶に入ったお酒。当代杜氏辻麻衣子杜氏の瑞々しい感性が垣間見える逸品です。グラスから立ち上がる香りはどこか穀物のような落ち着く香り。
岡山名産黍団子の香を思い起こす人もいるかもしれません。しかし、単純に穀物の香ではありませんスモモや白桃といった甘くフルーティな香りがすぐさま追いかけてきます。口にふくむと甘い香りが穏やかに通り過ぎていきます。口あたりは滑らかで、ふくらみのある旨みと甘みがしっかりと感じることができます。そのあとを存在感のある酸が、旨みと甘みをしっかりと洗い流すようにバランスよく消えて行きます。後半のキレのある酸は、「雄町」を醸した日本酒であることを感じます。
凉冷えでキュッとしまった感じの飲み口がスタンダートですが、燗にして引き締まった辛口を味わうというのもなかなかの味わいです。レギュラー以外に季節限定ボトルもあるということなので、是非とも飲み比べてみたいお酒です。

御前酒 純米 美作

御前酒 純米 美作」は、岡山県産「雄町」を65%まで磨き上げて仕込まれた純米酒の一本。穏やかな香りが心地のよいお酒です。旨味とあまみがジンワリと口一杯に広がってゆく力強さは「雄町」らしいお酒です。
酸もくっきりとバランスよく、きれいにキレていく辛口の風合いが美味しいお酒です。常温でグラスに注いで飲むのもよろしいが、ここは燗。日向燗やぬる燗でジンワリと湯豆腐などとチビチビとやると美味しそうな味わいです。こちらのお酒は、令和元年度広島国税局清酒鑑評会「燗酒」部門優等賞受賞も十分に頷けます。
「御前酒」のラインナップはさらに大吟醸酒や吟醸酒、季節限定酒もラインナップされています。どのお酒も、岡山県産米にこだわった逸品揃い。是非ともご賞味いただきたいところです。

「炭屋彌兵衛」

炭屋彌兵衛」は、辻本店の新しいブランド。辻本店のもともとの屋号である「炭屋」からいただいたものだそうです。
「炭屋彌兵衛」シリーズは、厳選された岡山県産「雄町」を全量使用、醪発酵のままの風合いを大切にし、活性炭濾過をほどこさないお酒です。活性炭濾過をしないため、お酒の色は山吹色。それが自然な色だそうです。「炭屋彌兵衛」には純米酒と純米吟醸酒の二つがラインナップされています。「雄町」で醸したお酒の旨みとバランス良い酸を愉しめるお酒です。
こちらは、販売店限定流通で入手が困難かもしれません。気になる方はHPをチェックしてください。

まとめ

「御前酒」は岡山県真庭市の辻本店が醸造する、岡山県産にこだわったお酒です。創業は江戸時代の文化年間、200年を超える歴史のある老舗の酒屋が醸造しています。現在は女性杜氏が備中杜氏の熟練の技を継承、発展させ、女性らしい感性での本酒を醸す一方で、伝統の味をきっちりと守っておられます。
酒蔵では、直営のカフェやお食事処を併設。登録有形文化財の酒蔵の見学も可能です。直売所では「御前酒」のラインナップがほぼ入手可能なほか、直売所限定のお酒も用意されています。また、「御前酒」ゼリーなど、ちょっと気になる商品もあります。機会があれば、蔵のあるまち美作勝山へも足を伸ばしてください。

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