
※この記事を書いた日本酒ライターdencrossのプロフィール
清水湊の酒蔵
大きな街道筋には古くから蔵を構える造り酒屋が結構存在しています。「臥龍梅」を醸造する三和酒造も、江戸と京を結ぶ東海道江尻宿がおかれ、富士川に舟運と太平洋の海運との結節点でもあった清水湊で栄えた当地で誕生しました。

現在は三和酒造株式会社と会社組織になっていますが、もともとは鴬宿梅を醸造していた鈴木家が営む個人商店の造り酒屋。その創業は、江戸時代初期の貞享3年(1686年)に、初代鈴木市兵衛が当地に酒蔵を開いたのが始まりとされています。江戸時代の初期から現在まで、330年を超える歴史を有する、街道のレジェンド的酒蔵といえます。
ところで初代鈴木市兵衛が当地に酒蔵を開いたのには逸話が残っています。初代市兵衛が酒造に適した良水を求め、ある時稲荷大明神に「酒造用の良水を授けたまえ」と祈願しました。その後、ある満月の夜に、市兵衛の夢の中に稲荷大明神が現れ、鶯と化して市兵衛を浅間山麓の梅の枝に止まった。その止まった場所を掘ってみると、滾々と清らかな水が湧き出したといいます。その場所が、現在も本社がある静岡市清水区西久保だと伝えられています。そして、この逸話にあやかり、醸造されたお酒は「鴬宿梅」と名付けられ、300年に渡り近郷の人々に愛飲され続けられました。
三和酒造の設立
現在、「臥龍梅」を製造しているのは三和酒造株式会社。昭和46年5月、会社設立された会社。設立後、早くも犯跡を迎えようとする会社です。母体となったのは、江戸時代から続く老舗の造り酒屋です。それまで300年近く、「鴬宿梅」という銘柄のお酒を醸造し、近郷では人気のお酒でした。
時代は高度成長期。消費社会は発展拡大し、それにともない需要も増加しつづけました。そこで需要の拡大に対応すべく、当時清水市内に蔵を構えていた3つの酒蔵が合同して三和酒造株式会社を設立しました。
会社設立による新たな出発にあわせ、静岡県民の心の象徴として県民に愛されるお酒をモットーに一般から公募したお酒を発売しました。「静ごころ しずごころ」です。清水近郷にかかわらず静岡県で広く知られることになります。そして昭和60年には、静岡県清酒鑑評会の純米酒部門首席、静岡県知事賞を受賞、この機会に純米酒「羽衣の舞」を発売し、純米酒市場に参入しました。
「臥龍梅」の発売
平成に入り、日本酒全体のマーケットは長期的に重要の減少傾向がつづきました。しかし、純米酒や大吟醸酒などのいわゆるこだわりの日本酒とよばれる商品は新たな需要を喚起し、日本酒市場では健闘していました。そういった日本酒市場の環境の変化を見据え、まったく新たなブランドとして立ち上げられたのが、平成14年秋に発売開始した「臥龍梅」です。
その違いは醸造法にあります。「臥龍梅」は、徹底的にこだわった吟醸小仕込み。総米600キロ程度号ずつ、小分けに醸造するという非常に手間の掛る醸造法を採用。すべての工程から妥協を排除した丁寧で手間ひまをかけて醸造されています。その手間は、新酒鑑評会へ出展する特別なお酒とまったく同じもの。特別なお酒をそのまま味わえるというお酒なのです。
「臥龍梅」の由来
ところで、気になるのは「臥龍梅」の由来。三国志ファンなら諸葛亮孔明のことが真っ先に頭に浮かぶのではないでしょうか。「臥龍」とは隠棲していた孔明を評した、襄陽の名士であった龐徳公が名付けた異名。地に臥した龍のように隠れた才能の持ち主こと。
このエピソードにあやかって名付けわけではありません。興津の清見寺という古刹に由来します。

こちらのお寺は、日本十刹7位のお寺。戦国時代には、今川家の人質になっていた徳川家康が預けられていたお寺です。この寺に一本の梅の古木があり、徳川家康お手植えの梅とも、お接ぎ木の梅ともいわれています。この梅の古木の名を「臥龍梅」といい、この古梅の名を頂戴したのが由来となっています。余談ですが、古梅そばには、臥龍梅を詠んだ与謝野晶子の歌碑が設けられています。
300年を超える歴史をもつ清水湊の酒蔵の酒「臥龍梅」3選

徹底的な品質管理と丁寧な作業、小仕込みにこだわった「臥龍梅」。精米歩合や使用する酒米のちがいなの他、通年、手に入るものや、気絶限定の商品もあり、さまざまなバラエティーに富んだ商品ラインナップが用意されています。
臥龍梅 純米大吟醸 開壜十里香 愛山 袋吊り
「臥龍梅 純米大吟醸 開壜十里香 愛山 袋吊り」は、稀少な酒米「愛山」を45%まで磨き上げ、丁寧な作業で仕込み、搾りは手間と時間がかかりますが雑味のない袋吊りで一滴一滴集めて瓶詰をした一本です。「臥龍梅」の最高峰の一角に位置づけられる商品。開栓すると豊かで華やかな果実の様な香りが漂い出します。まさに名前の通り「開壜十里香」。そっとグラスに注ぎ口に含めば、抜けてゆく華やかな吟醸香と口に広がるこれぞ「愛山」といえる米の旨みと甘みの重厚さに驚かされます。後半、豊かな甘さや旨みがながく余韻を引きながら、クドさも感じさせず、スーッと喉奥へ消えて行きます。キリット冷やした雪冷えや花冷え、軽く冷やして凉冷えで愉しむお酒です。
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臥龍梅 純米酒
「臥龍梅 純米酒」は、「臥龍梅」シリーズ、純米酒のスタンダートの商品。純米酒ながら、しっかりとした果実香の立ち上がる一本です。純米酒ながら米の旨みに雑がなくクリア酒質は、小仕込みと丁寧な仕事の賜物。価格もリーズナブルで、初めての「臥龍梅」にもお奨めお酒です。口あたりは優しく、しっかりとした米の旨みと甘み、隠れながらもしっかりした酸のみごとな調和は、軽くキレのある飲み飽きしない味わいです。食事のお酒にも最適で、お料理の味をそっと引き立ててくれます。
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臥龍梅 本醸造 火入れ

「臥龍梅 本醸造 火入れ」は、ラインナップのボトムゾーンの商品。純米酒ではありませんが、圧倒的なポテンシャルを持ち、コストパフォーマンスが抜群の一本です。本醸造の通常商品でありながら、酒蔵のある静岡の近郷でほとんど消費されるためか、県外ではなかなか入手が難しい商品で、「幻の静岡の酒」といわれることも。
グラスに注ぐと立ち上がる柑橘系の香は、「これ本醸造酒?」と思えます。ボトムゾーンの商品であっても、丁寧な仕事で造りこまれていることを感じさせます。サラッとした飲み口に熟成された旨み、控えめながらしっかりと主張をする酸がバランスよく、喉越しの爽やかな後味が心地よい味わいです。日々、晩酌にはピッタリ。派手さはないが、飲み飽くことのないしっかりとした造りのお酒です。
「臥龍梅」シリーズには、スパークリングのお酒や純米吟醸など、まだまだ魅力的な商品があります。興味がある方、ご自分の目と口で確認することをお勧めします。
「臥龍梅」は300年を超える歴史をもつ酒蔵が、新たな試みとして世に問うたお酒。しかしその実、しっかりと積み上げられてきた伝統の手技を用いて醸造されています。酒蔵の醸したお酒は、かつては東海道上洛、東下りする旅人や清水湊の船乗りたちを大いに楽しませてきた事でしょう。きっと、次郎長をはじめ大政小政も飲んだに違いありません。そんな蔵の歴史を感じて「臥龍梅」を愉しむと、また違った味わいを感じることができるかもしれません。












