清酒「惣誉」を醸造するのは栃木県芳賀郡市貝町にある、創業明治5年の惣誉酒造。もともとは江戸時代より滋賀県日野で醸造業を営んでいましたが、豊かな水と美田のある市貝町へ出店として酒造りを始めました。

※この記事を書いた日本酒ライターdencrossのプロフィール
栃木県で重鎮の酒とよばれるお酒「惣誉」
「惣誉」は北関東の栃木県のお酒。あまり耳にしたことの銘柄。気になったのでいろいろと調べてみました。こういったデータを簡単に調査できるのがネットの利便性。
驚きました。地元販売率が9割を超えるお酒。過疎化や人口減少が進む地方の酒蔵は、どうしても大消費地である東京などの特約店や代理店へ卸すことにより売上げをあげています。地方の小さな酒蔵では、生産量を上げたりはしないので、出荷の割り当てに腐心しているとも聞きます。ですが、どうしても大消費地への出荷が多くなってしまいます。
ところが、「惣誉」は地元栃木県内で大半が消費されています。なるほど、「地酒の中の地酒」と呼ばれる理由もわかるような気がします。
「惣誉」、実は9年連続で全国新酒鑑評会の金賞を受賞している優秀なお酒でもあります。全ての商品に通底する生もと酒母製法。江戸時代に完成された伝統技術でしか出すことのできない味わいが、しっかりと醸し出されています。
もう一つは、酒米「山田錦」へのこだわり。最高の「山田錦」を潤沢に使用した酒造りは、全国的にも稀な存在ではないでしょうか。
日本酒はお米を原料にして作られています。日本人の主食であるお米から作られているのでとても身近に感じられるお酒ですよね。 日本酒はお米が原料になっていますが、どんなお米でも日本酒を作れるわけではありません。日本酒を作るのに向いているお米とそうでないお米があります。またどのようなお米を使って日本酒を作...
環境

市貝町は、栃木県の南東部に位置し、県都宇都宮の20キロほど東側にあります。北部には芝ざくら公園や那珂川県立自然公園、南には伊許山などがあり緑が豊かな田園風景が広がり、町の中を利根川へ注ぐ小貝川が流れています。
関東平野の北縁部あたり、冬場には霜が降り、身を切るような冷え込みが周辺を包み込みます。
冬の冷え込みは、日本酒造りには最適。酒蔵から汲みあげる、鬼怒川水系の豊かで清らかな伏流水とあいまって、惣誉酒造に代々続く酒造りを支えています。
また、周辺は栃木のおいしいコシヒカリの産地でもあります。長年の米作りをつづける農家に酒米作りを委託契約。栃木県産の酒米「五百万石」を全量使用したお酒も醸造しています。
酒造りの特色に「生酛づくり」
惣誉酒造の日本酒造りは、「召し上がる方の笑顔を願い、丁寧に手づくりすること」。そのために、職人とよばれる蔵人が、日々お酒と向き合い、酒造りに励んでいます。
惣誉酒造の酒造りの特色に、「生酛づくり」があります。「生酛づくり」とは、江戸時代より続く酒母の製法の一つ。酒母を丁寧に手作業でつくる方法のことです。酒母とは、日本酒造りに欠かせない酵母を集めたものといってもいいでしょう。日本酒発酵のもとになるものです。
酒母に重要なのが乳酸の存在。乳酸が存在しない酒母は、たちまち雑菌に浸食され、腐ってしまい、日本酒にはなりません。乳酸は、工業的に簡単に製造できるので、乳酸を添加することにより酒母は完成します。こうして造られる酒母を「速醸酛」といいます。一方、「生酛」は、乳酸も手作業で造る方法です。天然の乳酸を得るためには、乳酸菌を培養しなければいけません。それには、1ヶ月という時間を必要とします。
蒸し米と米麹を丁寧に手作業で摺り潰し、時間をかけて乳酸発酵をさせて、乳酸を得る方法です。複雑な工程と、手間のかかる温度管理をこなして、はじめて酒母をえることができます。
生酛を用いて造ったお酒は、深みあるあじわいとコクがあるといわれています。米の旨味余すことなく引き出すともいわれています。「生酛」づくりのお酒は酒母を造るだけでも時間を掛かる伝統的な技法。当然、大量生産には向いていません。
「生酛」つくりと、兵庫県特A地区産の「山田錦」を合わせた日本酒造りをしています。伝統技法の「生酛」に磨きをかけ、惣誉のイメージするお酒に最も適した自家精米した「山田錦」を合わせて仕込む。そうした一連の流れで造られる生酛の酒を「生酛ルネサンス」とよんでいます。
また、栃木県産の「五百万石」を醸したお酒も注目です。栃木県の水と米、麹、風土と、酒蔵のエキスが目一杯詰まったお酒に違いありません。
酒造の実績

さて、そうした思いのこもった惣誉酒造のお酒。全国新酒鑑評会では5年連続金賞を受賞、入賞含めるとなら15年連続と、その品質とレベルの高さは折り紙つきです。
しかし、大量生産ができないお酒のため、入手することもなかなかかなわないもの。蔵元は小規模な酒蔵のため直販は一切なし。代わって、惣誉特約店が販売しています。酒類も量販店が幅を利かす昨今ですが、しっかりと佳い日本酒をお客様に届けたいと、酒店を営む方々も多くおられます。いまでは、ネットを通じて検索できるので、近くの特約店探しも簡単になりました。また、遠方にも送ってくれるお店もあり、送料の負担がありますが、比較的に入手が簡単になっています。生酛造りの「惣誉」、味わってみませんか。
「惣誉」には季節限定品や数量限定品、通年商品などの複数商品があります。どれも「惣誉」ですが、やはりそれぞれに違った表情があります。いくつかの「惣誉」の特徴を紹介しましょう。
惣誉 特別純米酒 辛口
「惣誉 特別純米酒 辛口」は「惣誉」の定番商品の中の一本。酒米には「惣誉酒造」こだわりの「山田錦」。すべて、特A地区産です。精米歩合60%と、吟醸酒や大吟醸酒ほど磨かれていませんが、日々の晩酌や食事のおともにはこのくらいの落ち着きにある香りくらいがちょうどいい感じです。
辛口と名乗っていますが、辛いっという感覚はありません。むしろ、ふくらみのある米の旨味がしっかりと感じられ、あと口のキレが辛口のキレのよさという感じのお酒です。くどくなく、飲み飽きしない味造りは、日々の晩酌での愉しいひと時を演出してくれるはずです。
惣誉 純米大吟醸 五百万石 生酒
さて、地元で愛される定番のお酒を造る蔵元が醸す特別のお酒はどんなものなのでしょう。季節限定品から「惣誉 純米大吟醸 五百万石 生酒」。「山田錦」への並々ならないこだわりのある蔵元があえて栃木県産「五百万石」を全量使用した一本。50%まで磨き上げて仕込んだお酒を、そのまま濾過して瓶詰。12月から3月だけの季節限定の新酒です。
栓を開けると、大吟醸の新酒、それも生酒とあってメロンのような華やか香りが味への期待を高めます。そっと口に含むと、やさしく軽くきめの細かいシルクのような口当たり。甘みは軽く、それでいてふくらみのある米の旨味が口に広がっていきます。酸味も利いており、あと味は爽やかに、喉奥へ消えてゆきます。季節限定の生酒にこんなお酒を用意しているあたり、蔵の底力を感じます。
惣誉 手造り
「惣誉 手造り」も定番の商品。普通酒で造られたリーズナブルに愉しめるお酒。しかし、この酒も「山田錦」への高いこだわりがしっかり生きています。麹米に「山田錦」を使用。サラッと飲める味は、食事のお酒にも最適です。辛口ではないが、口当たりのよい優しい甘さと、滑らかに舌のうえを引か掛ることなく流れ行きます。晩酌や食事のおともに、話の弾むお酒です。栃木県では誰もが知る酒であることが納得できる一本です。
今日のお酒は『惣誉』手造り清酒と『会津ほまれ』旨辛口。惣誉は適度な甘さ、会津は食事を邪魔しない穏やかさ、それぞれアル添の良さがあります。今日は栃木からいただいたお野菜の天ぷらに栃木のお蕎麦!美味しくいただきました…! pic.twitter.com/wLI4e4Mw9p
— 無脊椎まだる@コミティア131そ28a (@ma_da_ru) July 5, 2016
「惣誉」には、ほかにも鑑評会に出品されるような杜氏渾身の大吟醸や、山田錦にこだわった新酒、辛口特醸の定番酒など、いろいろなお酒があり、酒蔵の懐の深さを感じます。栃木県で9割が消費されるという、「地酒の中の地酒」をぜひとも味わってみませんか。東京近郊の方、JR宇都宮線で観光がてらにお出かけにもいいのではないでしょうか。












